「もっと、強くなりたいんです。皆を守れるぐらいに強く!」

 決意を感じさせる声だった。
 果てなく続く地平線、岩山がポツリとポツリとその肌を晒す妙神山の修行場。
 その中の手ごろな岩の一つに腰を下ろした斉天大聖は、指で顎髭をもてあそびながら声の主に問いを投げ与えた。

「本気なのか?」
「はい」

 間髪入れずに返ってきた返事からも、声の主が相当の覚悟を持っていることが窺える。

「どんな修行にもついてこれるか?厳しい修行になるぞ」
「かまいません。あのような思いを味わうことに比べれば、どのような修行も」

 しばしの沈黙のあと、斉天大聖は頷いた。

「よし、ならついてくるのじゃな」
「ありがとうございます」

 斉天大聖はニヤリと笑い、立ち上がり歩き出した。
 妙神山の管理人である小竜姫は、深く頭を下げ自らの上司についていった。






「着替え終わったかの」
「…………ええ」

 しばらく間があった後、銭湯を思わせる更衣室から、先ほどは正反対に、迷いを感じさせる声が返ってくる。

「ふむ、立派に高校生に見えるな」
「あの、なんでこんな格好をしなければならないんでしょう。修行ですよね?」

 顔を引き攣らせた小竜姫が着ているのは、白いシャツに重なる襟もとの広い黒いネッカチーフとそれをまとめるリボン。ネッカチーフと同色のスカート。
 女学生用の制服。いわゆるセーラー服であった。
 神様という単語とは程遠い、容姿の持ち主である小竜姫が着ると、斉天大聖の言葉通り女子高校生そのものに見える。
 それはそれで微笑ましくあるのだが、小竜姫が求める修行を行うためには適当とは言いがたい服装であり、彼女が疑問に思うのも当然であった。
 目で訴えかけてくる小竜姫に、斉天大聖は表情を変えず口を開く。

「メドーサとの対決での度重なる失態」
「うっ」
「対アシュタロス戦に至っては、ごく初期に戦線離脱」
「ううっ」

 斉天大聖の言葉の一つ一つが、小竜姫の心臓に矢を突き刺す。

「この失態の数々の原因、お前はなんと心得る?」
「は、はい。やはり私の力不足が……」

 小竜姫の返答に、指をチッチッと横に振る。

「ちがうな。お前の力はもう十分じゃ。そもそも、力という点では神族にはるかに及ばない人間達が魔族と戦い、勝ってすらおる」
「そ、それでは私には一体なにが不足しているんでしょうか」
「心の余裕じゃな」
「心の余裕?」
「そう、心に余裕を失えば冷静さを欠き、判断力をなくす。判断力をなくせば、力も十全に活かせなくなる」
「な、なるほど。しかし、それとこの格好にどういう関係が?」
「うむ。人間界では毎日実に様々なことが起っておる。これは『てれびじょおん』を見ても明らかじゃな? じゃが、『てれびじょおん』は世の事全てを映しておるのか? 否、一部を切りとって映しておるだけじゃ。それにじゃ、見ているだけでは分からないこともある。体験して初めて分かることもある」

 師の言わんとするところを理解して、小竜姫が言葉を継ぐ。

「つまり、私自身が人間界に下りて、世のさまざまなことを体験し、心に余裕を見つけて来い、と」
「うむ、そのためにお前にその服を着せたのじゃ。さっ、善は急げじゃ、行って来い」
「は、はい」



 小竜姫の姿が視界から消え去ったのを確認し、本堂に戻る。

「行ったでちゅか?」
「ああ、行きおった行きおった」

 浮いた声で斉天大聖。
 柱の影に隠れていたパピリオが斉天大聖に話しかける。その小さな姿は、本人は認めないであろうが、少女というよりは、幼女と呼ぶほうが相応しい。

「それにしても上手いこと考えまちたね」
「ああ、伊達に年は食うておらんよ」

 クククと二人の顔に合わせ鏡のような陰湿な笑みが浮かぶ。

「セーラー服の小竜姫の生写真。ポチは当然のこととして……」
「ああ、他にも毘沙門を初めとして小竜姫のファンは山程おる。一枚五〇〇円としても、結構な儲けになるじゃろ」

 二人の計画は、制服姿の小竜姫の生写真を彼女のファンに売りつけようという、およそその神族が立てるとは思えないような代物であった。

「ふふふ。ゲームステーション3もURYYも出まちゅからねぇ」
「ああ、まったく買うほうにとっては嬉しい悲鳴じゃ」
「楽しみでちゅねぇ。ところで写真は誰が撮るんでちゅか?」
「心配ない、適任者がおる。そう、適任者がな」

 その頃、小竜姫は岩山をテクテクと降りていた。

「反射的に、はいなんて言ってしまったけど……」

 当然、釈然とはせず、心にひっかかるものがある。まぁ、老師のこと。自分には及びもつかない深慮があるのだろう。そう自分を納得させ、下界へと歩を進めることにした。
 そんな小竜姫を捉える一眼レフが一つ。

「ふふふ、女子高生小竜姫の投稿風景。背景が岩山なのはちょっとばかしアレだけど良い絵よね。分け前も貰えるし、たまにはこんな任務も悪くないのねー」

 カメラから目を外し、ヒャクメが笑った。








 世の中のことを体験する、とはいっても目的が漠然としすぎていてどこに行けばいいものやら見当がつかない。
 とりあえず、歓楽街を訪ねては見たもののナンパされるわ、変な中年男性に『五万でどう?』と言われるわで碌な経験ではなかった。
 道々、偶然イームとヤームに会ったが、僅かに気まずそうな顔をしたところを見ると天龍童子に玩具を買ってくるように頼まれたのかもしれない。

「とりあえず、学校にでも行ってみますか。セーラー服を着てるんだし」

 我ながら単純な理由だと思わなくもないが、どこに行けば良いというアテがないのだから仕方ない。
 しかし、到着した小竜姫は、手提げカバンをポトリと落とすことになる。

「そういえば、今の時期は……」

 誰もいない校庭、人気のない校舎。
 今は八月半ば。
 その大小を問わず学校は夏季長期休暇、夏休みの期間中であった。








 テレビからキンという金属音が響き、一瞬遅れて歓声が室内に響いた。
 映し出されているのは、高校球児たちの激闘、夏の甲子園。
 繰り広げられるプレーの一つに一つに一喜一憂する愛子を、横島はいささか呆れ気味に眺めていた。

「トウモロコシを齧りながら、高校野球。これぞ夏の青春の定番よね」
「いや、夏の青春というよりはお盆の里帰りの定番だと思うが」
「なによ、補習終わりに人の部屋に入ってきて言う台詞?」
「お前の部屋って、ここ家庭科室だろうが」
「あら、休み中は自由に使っていいって言われてるのよ。私、先生たちに信用されてるんだから」
「それは贔屓されてると言うんじゃないか? 教師の生徒差別はイジメの温床だぞ」

 自分が教師達からぞんざいな扱われ方をされていることを思い出し、唇を尖らす横島。
 無論、欠席遅刻は当たり前、出席した授業も昼寝の時間と決めこまれては、教師側も彼に好意的な態度を取り様は無いわけだが。

「はいはい、あなたの扱いが悪いのは自業自得じゃない。
 そんなことより、試合見なさいよ。この可憐高校の投手の椎名君っていうのはね、中学時代、全国大会で活躍したんだけど、高校に入ってからは二度の大怪我しちゃったの。血の滲むような努力でそれを克服してチームを甲子園に導いたのよ」

 愛子の台詞も椎名君の苦労も、横島の耳には右から左だったらしく、下敷きを団扇がわりに扇いでいる。

「ほー、ところでアイスか何かないか? 暑くてたまらん」
「もー、仕方ないわね。冷凍庫に氷、あと窓のほうの棚にかき氷機あるから、それ使いなさい」
「へーへー」

 冷凍庫から氷を取り出し、窓際を見れば、確かにペンギン型のかき氷機がある。
 ――アイツ、こんなもんまで持ちこんだのか。
 呆れつつ、愛らしいペンギンに手を伸ばす。
 と、そこで、校庭に人影があることに気づいた。
 はて、自分の他にも補習を受けることとなってしまった可哀相な生徒がいたかと同情混じりに目を細めた。

「んっ?」

 横島の目に光が灯る。
 見覚えがある。いや、たしかあれは。
 一度見た美女は忘れないと豪語する横島の記憶力が全開となり、一つの結論に達したその瞬間、

「小竜ム、ムガッ……!? ハ、ハイホ!」

 何者かの両手が、彼の襟元を掴み口を塞いだ。
 咄嗟の事態にめげず必死に出した声もテレビとトウモロコシに齧りつくのに夢中な妖怪の友人には届いた様子もなかった。








「……で、仮にも神族がこんなところでなにやってんだ? とうとうコレか?」

 親指でクビを切るマネをする。
 横島を廊下まで連れ出した神族ヒャクメはその言葉を否定する。

「違いますよ。今も老師に言われて特務任務中なのよねー」

 特務というところを強調してエヘンと胸を張る。

「で、その特務任務ってのは?」
「ウフフフ、聞きたい? 聞きたい?」

 いやでもな〜これを喋るわけには、と顔をニヤつかせながら両手を口で覆う。
 そのヒャクメの様子に、一発小突いてやろうかどうしようか拳を固めた横島の脳裏に、ふとさきほど見た制服姿の小竜姫がフラッシュバックした。
 制服姿の小竜姫。
 普段なら、というよりはよっぽどのことがない限り拝めない姿である。
 そして、なにより目の前のヒャクメ。
 ――匂うな。
 横島の直感が問いを発する。

「おい、ヒャクメ。その任務に小竜姫さまは関係あるのか?」
「んー、どうしよっかな〜」

 なおも、ヒャクメはもったいぶっている。

「そ、そんな殺生なこと言わんと、ヒャクメ……いや、ヒャクメさまっ。そうだっ、氷齧ります? 溶け掛けだけど」

 差し出した氷は、夏の猛暑に早くも溶けかかり、床に水滴が垂れている。

「いらないのね。まっ、しょうがない教えてあげるわね。人間を助けてあげるのが神族の勤めだし。ちょっと耳貸すのね」

 耳打つヒャクメの声に、フンフンハァハァと頷く横島の顔が、次第に赤くなっていく。
 とはいっても、その表情は恥ずかしいからとかそんな初々しい代物ではなく、ただ単に興奮しすぎて頭に血が昇りすぎただけの暑苦しいことこの上ない物である。

「なるほど、小竜姫さまの制服姿の盗撮…いや、画像資料の保存と」
「そうなのよね。付け加えるなら妙神山の経済的支援なのねー」
「売るのかよ」
「そこで横島さんにも一つ手伝って欲しいことがあるのねー」
「手伝ってほしいこと?」
「制服姿は素晴らしい。それはわかるでしょう?」
「もちろん」

 しかも小竜姫の制服姿である。
 希少価値もあろうというものだ。

「でも、それだけじゃ商品として押しが弱いと思わない?」
「いや、十分だとは思うが、どういうことだ?」
「もう、横島さんたら鈍いのねー。あつーい夏の学校の風物詩といえば?」

 横島の目が一層大きく見開かれ、一つの光景が思い浮かぶ。
 真夏の強い日差しに輝く水面、黄色い歓声、そして薄い布地で飾られた女性達の肢体。

「プールかっ!?」

「ご名答。プールなのねー、スクール水着なのねー」

 正解の商品代わりとばかりに、どこから取り出したのか開封前のスクール水着を横島の目の前に差し出す。

「しかしプールはいま閉じてるんだぞ。鍵は職員室にあるし」
「おやおや、人界唯一の文珠使いとは思えないお言葉ですこと」
「俺にとってこいと? しかし、窃盗とかになるんじゃないのか、それは」

 一見、殊勝に見える横島の言葉だが、言わんとするところは『そんな犯罪行為を俺にやれだと?バカにするな!』ではなく『こんな日和ったこと言っちゃあいるけどやる気満々です。どうにか屁理屈をこねくり回して論破してくださいヒャクメさま』である。

「……横島さん、あなたは何度も人界を救ってきたいわば勇者なのね。だったら勇者にふさわしいご褒美を受け取る必要がある。スク水の小竜姫とプールで二人っきり、それぐらい望んでも罰は当たらないのねー」
「そのためには」
「そう、そのためには些細な悪事の一つや二つ。
 大体、勇者が宝箱を開けるのを犯罪だなんて言う村人がいる?いないのねー」

 大概な屁理屈なのだが、横島は返事をせず手を差し出す。

「………写真は焼き増しして俺にもくれよ」

 もちろんと満足そうに頷き、ヒャクメはその手を握り返した。

「勇者に」
「勝利の凱歌を」

 かくして作戦は決行されることとなった。






 小竜姫は、校庭内の木陰で途方に暮れていた。
 ――このままここにいてもどうしようもないけど、かといってどこに行けばいいやら。また美神さんに頼ってみようかしら?でも、何を見返りに要求されるか…。
 そんなことを考えていると、遠くから手をブンブンと振りながら人影が近づいてくる。

「小竜姫さまー」
「よ、横島さん?ここ、横島さんの学校だったんですね。でも、夏休みなのにどうして?」
「い、いや、ちょっと通りかかったんですよ、ハハハハ」

 さすがに見栄があるのか補習とは言わなかった。

「ところでプール入っていきません?」
「プール、ですか?」
「ええ、プール。学校のプールには、忘れてきた奴用の水着もありますし。大丈夫ですよ、開いてはいますけど他には誰もいませんし」

 勿論、真っ赤な嘘。
 横島が文珠を駆使して鍵を盗み出しプールと言う名の楽園に続く門の鍵を開け、ヒャクメが更衣室に水着を仕込む。
準備は万端である。

「で、でも私には修行が……」
「いいからいいから」
「ちょ、ちょっと」

 断ろうとする小竜姫の背中を強引に押し、プールへと向かっていった。








「行きますよー、小竜姫様」

 横島の手に弾かれたビニールボールが小竜姫に向かって、緩やかな弧を描いて飛んで行く。
 こんなことをやってていいのかと、いささか戸惑い気味にボールを弾き返す。
 その小竜姫の様子に、横島の邪な気持ちも少しばかり変化してくる。
 横島は何度も小竜姫に会ってはいるが、こんなに表情の冴えない彼女を見るのは初めてなのである。
 ――んー、困ったことになったな。
 ヒャクメの写真の腕は知らないが、小竜姫はプールに入って以来、心からの笑顔は見せていない。せいぜい愛想笑い程度を見せただけ。
 悩み顔の小竜姫の写真もそれなりには売れるだろうが、やっぱり笑顔の写真の方が売れるだろうし、なにより美少女には笑ってて欲しいなと思うのが横島なのである。

「あのー、何かあったんスか?」

 意を決して聞いた横島が打ち返したボールは、小竜姫の肩に当たり力なく水面を叩いた。

「小竜姫さま?あ、あの、ほらっ、答えたくないならそれで結構ですから」

 慌ててワタワタと手を振る。
 俯いた小竜姫がポツリと呟いた。

「私、情けないなって」
「へっ?」
「神族だ、竜神だなんて言っても、いつもいつも横島さんや美神さんに助けられてばっかり」
「そんなことないですって」

 横島がすかさずフォローの言葉をいれる。
 しかし、小竜姫はその言葉を受け入れることなく言葉を続ける。

「それに……今度のアシュタロスのことでは、横島さんには本当に悪いことを…」

 小竜姫の顔から流れ落ちた水滴が、揺れる水面に吸い込まれていった。
 気まずい時間が二人の間を流れる。
 ――あかんなぁ、どうにもこういう場面は。
 横島はしばらく頭を掻きながら唸った後、小竜姫に手で水をかけた。
 小さな悲鳴を上げ小竜姫が顔を上げる

「そんな顔しないでくださいよ。あれは小竜姫さまのせいじゃないんスから。それに、ほら。人間休んだり遊んだりしないと駄目になりますって」
「横島さん……」

 太陽を眩しそうに見上げた後一つ長い息を吐き、ザブリと体ごと水中に潜る。
 横島が少し心配になるぐらいの時間、小竜姫は潜りっぱなしだった。
 水面を割り再び空気に触れた小竜姫の顔には、鮮やかな笑顔が浮かんでいた。

「ありがとうございます」

 横島に礼をいい、横島に水をかけかえす。

 ――老師さまはこのことを言いたかったのかもしれない。

 過大評価どころか見当外れにも程がある推測なのだが、この時小竜姫は感謝の念を斉天大聖に抱いていた。





「いい写真は撮れてるけど……なんだか面白くないのねー」

 日差し避けに置いたパラソルの影の下で、シャッターを切る音と同時に舌打ちが響く。

「小竜姫をプールに入れろと言った覚えはあるし、笑顔の写真を撮れるのはいいけど…」

 カシャッ チッ

「誰が、二人で甘酸っぱい青春な空気を作れと……」

 カシャッ チッ

「言ったのねー」
「何してんですか? ヒャクメさま」

 驚き立ちあがり、振り返り見ればそこには見慣れた二人。

「ヤームにイーム、一体なんでこんなところに!?」

 背の小さいモヒカンヘアーのヤーム、サングラスをひっかけた鼻が特徴的なイーム。天龍童子の臣下になったはずの二人の竜族である。
 ヤームの右手には、オモチャ屋の物と思しきビニール袋が握られている。

「いや、殿下に頼まれたお使いの途中に、イームがヒャクメさまの匂いを嗅ぎつけまして」
「へ、へへ。俺の鼻は竜族一なんだな」

 イームがその鼻をこすりながら、誇らしげに言う。

「ヒャクメさまこそどうしたんで?」

 ――困ったことになったのねー。
 一瞬、どう答えるか逡巡したヒャクメは、下手に嘘をつかず知られてはいけないことのみを包み隠すのが上策だろうと判断し、ヤームの肩を両手で掴みこう答えた。

「私は老師から命じられた極秘重要特務任務の真っ最中なのねー。そうそう、ここで私を見たことは誰にも言っちゃ駄目よ。他言無用、秘密厳守! わかった?」
「へ、へい。じゃ、俺達はこれで」
「殿下によろしくなのねー」

 スゴスゴと帰る、二人に手を振り、撮影に戻ろうとする。
 他言無用を命じておいて、よろしくもなにもないのだが、この場においてヒャクメが犯した最大のミスは別のことであった。

「まったく、油断も隙もあったもんじゃないのねー。さてとカメラ、カメラ……あれ?」

 立ちあがった拍子に、飛んでしまったパラソルを元の位置に戻し、さて任務に戻ろうとしたのだがカメラが見当たらない。

「ああ、そうか手に持っていたは……ずっ!?」

 両手でヤームの肩を掴んだぐらいだから、手には当然持っていない。
 ――立ちあがった拍子に飛んだのはパラソルだけじゃ?
 ヒャクメはおそるおそる下を見た。
 カメラを持った小竜姫がこちらを見上げている。その瞳には間違い無く自分が映っているであろう。
 その表情は、笑顔ではあった。
 凍りついたような。
 さらに見れば、片手は逃げ出そうとした横島の腕を掴んでいる。

「…………なにもかも」

 溜め息を一つ、首を横に振り、

「終わったのねー」

 ヒャクメの心は、既にどうやって責任をあの二人に押しつけるかに向かっていた。
 同じ頃、横島はプールから上がろうとしたところを、小竜姫の笑顔に釘刺され、校舎の中では可憐学園の校歌をテレビの前で一人合唱する愛子の歌声だけが響いていた。










 後日、妙神山において斉天大聖とパピリオがゲーム禁止・おやつ抜きを命ぜられた。
 二人が新世代ゲーム機を買えたかどうかは定かではない。