――僕は親に捨てられた。

 迫ってくる黒い影。
 親だってそれを分かってた。気づいていた。
 それなのに、それなのに。


 ――逃げたんだ。僕の目の前で。

 
 その時、僕は自分が何をできるのか、いや、どうしていいのかすら分からなかった。

 混乱、恐怖、そして絶望。

 だけど、僕は助かった。
 一人の女の子が僕を助けようとしてくれたんだ。
 だから、僕は助かった。

 でも、当然両親を許すことなんてできなかった。
 口にする甘い言葉なんて信じることはできなかった。最初は。
 
 そう、最初は。
 甘いかもしれない、間違ってるかもしれない。
 怒りを感じないかと言えば嘘なにる。
 自分でも、そう思いながらも、もう一度、もう一度信じてみようと思った。
 だって、

 ――僕達は家族なんだから。

 少しづつ、少しづつだけど、僕たちは前みたいによく笑う家族になってきたと思う。
 まだぎこちないけれど、黒い気持ちは消えないけれど、少しづつ、一歩づつ前みたいに。











「あら、チャー坊。元気そうね」



おしまい