「それでは行ってきますね」

「んー、眠いからなるべく早く戻って来いよー」

 ゲームばっかりやってるからですよ、と一言ナギに残して、ハヤテ君には内緒でこっそりと作ってラッピングしたクッキーを手に、私は部屋を出ました。
 そういえば、ナギは私がハヤテ君にホワイトデーのクッキーを渡すことをなんとも思わないんでしょうか?
 信頼されてるんでしょうけど、それはそれでちょっと寂しい気持ちにもなります。まぁ、渡す相手がハヤテ君ですものね。

 

 あのクリスマスイブから――ハヤテ君がナギの執事になってから、早いものでもう三ヶ月。
 あの子は、本当によく笑うようになりました。

 この三ヶ月。
 ハヤテ君は、伊澄さんに売られたり、おじいさまの遺産の条件になったり、ナギとは同級生、私にとっては後輩になったりしました。
 それに、ハヤテ君が来てからナギの運動嫌いが、ほんの少しだけ直ったり、ズル休みも減ったような……これは勘違いかもしれませんが。
 本当に色々なことがありました。

 思えば、ハヤテ君はいつもいつも、そうどんな時でも、ナギのことを守ってくれました。ひょっとしたら、神様からナギへの、一番のクリスマスプレゼントだったのかもしれません。
 下田への新幹線や、お風呂のボイラーが壊れた時は私も助けてもらいましたしね、フフッ。

 お風呂?

 そういえば――随分恥ずかしい目にもあいましたっけ。
 裸を見られたり、逆にハヤテ君の裸を、その――見てしまったり。
 恥ずかしい目といえば、必殺技とか言ってスカートをめくられたり、せっかく心配してたのに制服姿をコスプレなんて言われたり、ネコミミ姿を……まぁ、あれは13号君にやらされたんですけど、それにシラヌイがゴキブリを咥えてきた時――抱きついてしまったり。

 そこで、私は足を止め、このまま部屋に戻ってしまおうかと、選びもしない選択肢を浮かべてみました。

 ――でも、カワイイところもあるんですよね。
 人形をプレゼントしてくれたり。バレンタインにチョコをくれたり。
 こうしてみると、女の子みたいな男の子ですね。
 つい、いじめたくなっちゃうというか、なんというか。
 そうだ、卓球勝負の時にした、メイド服を着て働く約束も守ってもらわないといけませんねー。

 メイド服を着たハヤテ君が頭に浮かんで、クスクスと一笑い。
 そうして、私は再びハヤテ君の部屋へと歩きはじめました。
 
 いつも一生懸命だけど、でも脆いところもあるハヤテ君。
 白皇に落ちたとき、彼の背中は本当に小さく見えました。
 だから、あんなことを。
 後ろから抱きしめるなんてこと、してしまったんでしょうね。
 そう。そんなハヤテ君のことが……家族として、好きで。

 そんなことを考えて歩いている内に、ハヤテ君の部屋の前に着きました。
 ノックをすると、「はーい」という返事。まだ、起きていたみたいです。
 ちょっとした悪戯心。驚かせたくて後手にクッキーを隠します。
 
「よろしいですか?」

「ええ。どうしたんですか、マリアさん? こんな時間に」
 
 怪訝な顔のハヤテ君に、隠していたクッキーを差し出します。
 
「これ、ホワイトデーのお返しです」
 
「えっ、あっ、でも、喫茶店を手伝ってもらったのに?」

「あれはあれ、これはこれです」

 ハヤテ君は、身振り手振りで自分を指差したり私を指差したり。私からのプレゼントによっぽど驚いたのでしょう。
 それも失礼な話ですけど。
 だからでしょう。ちょっと戸惑っているハヤテ君を少しいじめたくなりました。
 「受けとってくれないんですか?」とちょっと拗ねてみると、ハヤテ君は、あわててクッキーを受け取ってくれました。

 ――ああ、やっぱり

 そんなハヤテ君に、思わず笑みがこぼれてしまった私に釣られて、ハヤテ君もなんだかわからないけど、という風に笑ってくれました。

「そうですね、じゃあ、これはいつものお礼ってことで。
 これからも、よろしくお願いしますね」

「……はい。ありがとうございます」

 釣られたぎこちない笑い顔から、穏やかな笑顔になったところを見ると、ハヤテ君も喜んでくれたみたいです。
 贈り物を喜んでもらえるのは、やっぱり嬉しいことで。
 いつもみたいに、顔を真っ赤にして、恥ずかしげに笑いながらもう一度お礼を言ってくれるハヤテ君。

 そんなハヤテ君を見ていると、ついこう思ってしまいます。

 ――ああ、やっぱりハヤテ君は、かわいいなぁ、と。


 おわり